わたしの会社は、Web制作をしているため、デザイン会社という側面をもっています。
そのWebデザインでときどき気になるのが、「お問い合わせ」などのパーツやページに、女性の素材写真を使うことが多いことです。
例えば電話でお問い合わせすると、男性が出ることもままありますよね。
でも、男性の素材写真を利用することは少ない。
正直わたし自身も、いわば業界の慣例として、無意識にそういった女性素材写真を使う(あるいは指示する)ことがあります。
でも、昨今の世相を考えると、このままでいいのかな?とちょっと疑問に思います。
今日はそんなデザインにおけるジェンダーの問題についてのお話です。
そもそもなぜ女性の素材写真なのか
「電話番号」「メールフォーム」など問い合わせ部分は、ユーザーにもっとも注目してもらいたい場所です。デザインとして考えると、このエリアに注意を集めアクションを起こしてもらうことがWebサイトの成果につながります。
人間は「人の顔」を無意識に注目する傾向があるため、ここに問い合わせを想起させる「人の写真」を利用することは、デザインとして考えるととても合理的です。
最近はシンプルなデザインも増えていますが、そういう理由でまだまだ人の写真を利用しているところは多いように思います。
Webサイトとしては、もちろんその会社の実際の受付担当の方の写真を載せるのがもっとも適切ですよね。しかし、それが載せられないことが多々あります。
- 写真撮影の予算がないから無料で使える素材写真を使ってほしい
- 担当者の方が、自分の顔がネットに出るのに抵抗がある
- 担当者が退職した際に、写真を差し替えないといけないのが大変
などなどの理由により、「素材写真」を使うケースは少なくありません。
しかし、なぜかその素材は女性であることが多いように思います。
いくつかの理由を考えてみましょう。
女性の方がデザインとして効果がある
「男性よりも女性の方が、印象が柔らかい」
「話を聞いてくれそうなイメージがある」
「黒スーツで画一的な男性より、デザインとして映える」
アンケートの結果…ではなくてわたしの勝手な印象ですが、まずこのようなイメージが無意識的にあるのではないかと思います。
実際にクライアントから「若い女性の素材写真を使ってほしい」とストレートに言われたこともあります。
一般的にも、いかついおじさんが問い合わせにいるより、女性の写真の方が印象が柔らかいと感じるのではないかと思います。(サイトの目的によっては、いかついおじさんの方が効果的な可能性もありますが…)
もちろん、そう感じない人もいると思います。しかしデザイナーとしては、「成果をあげよう」と考えると、「世間における多数派(であろう)人」のイメージに沿った方が、より多くの成果を出せると考えるのは、ビジネスとして合理的な思考のあり方とも言えます。
そもそも素材写真に女性が多い
有料・無料に関わらず、デザイナーのために素材写真を提供するサービスがたくさんあります。
いわゆるフォトストックと呼ばれているのですが、こういったサイトではプロ・アマと問わず多数のカメラマンの写真が提供されています。
そこで「お問い合わせ」「コールセンター」などのキーワードで検索して表示される写真は、(男性もいますが)多くの場合女性の写真が多いようです。
このためデザイナーとしてはまず目に入るのは女性であり、バリエーションや雰囲気などの選択肢も男性に比べて多いため、使いやすいという実情があります。
こうして問い合わせ=女性のイメージは補強され続ける
2つの理由から、デザイナーとしては、あくまでデザインとしての効果と実用性をもとに判断していることが、おわかりいただけるのではないかと思います。
一方で、デザイナーとしてではなく、わたし個人としては、このままでいいのかな?と思うのも正直なところです。
例えば、女性の素材写真が多いということは、多数派の意識として問い合わせ=女性というイメージが多いということだと思います。だからその印象を合理的にデザインとして利用しようと考えます。
しかし逆に、Webデザインなどで女性の写真が多いから、女性の素材写真がたくさん撮影されたり、世間のイメージとして問い合わせ=女性という意識が醸成されているとも考えることができます。
また、実際に「女性の写真」と「男性の写真」を比較して、どちらが問い合わせ率が高かったかというABテストのデータをわたしは見たことがありません。デザインする側の思い込みという可能性もあるわけです。
じゃあ女性の素材写真をどう考えるべきなのか
実際のところ、この話は、男女問わず多くの人にとっては「どうでもいい」と思われるかもしれません。
わたし自身、なんとも落としどころのない話だなぁと思いながら書いているのですが、それでも記事としてこうして書いている理由はたぶんわたしと妻さんと子育てにあります。
わたしは妻さんと可能な限り子育てを分担してきました。(妻さんからの強い希望だったこともありますが)「女性が子育てをするもの」という意識はなく、そこに世間との隔たりを感じることも少なくありません。
これは「男性社会」「男性が悪い」という単純な話ではなくて、例えば「保護者会」など女性が大多数だと、男性側が疎まれる空気を感じることもあります。
また「飛行機のキャビンアテンダント」「新幹線のパーサー」など、実質女性しかなれない職業もありますよね。逆ももちろんしかりです。
問い合わせに女性写真が多いというのも、(誤解を招く表現かもしれませんが)「女性らしいイメージ」が、いい意味で活かされておるシーンなのではないかとも思うのです。
大切なのは、何も考えず「男性=こういうもの」「女性=こういうもの」と固定観念にとらわれてしまわないこと、なのではないかと思います。ちゃんと実情を踏まえた上で、素材写真をどう使うのが適切かを考えること。考える機会を持つことが重要ではないかと思います。
わたしはこれからもそういう判断をした上で女性の素材写真を使い続けるかもしれません。
しかし根底として、男女がそれぞれ違いを認めあって、それぞれのあり方や考え方を尊重することを大切にしたいと思っています。