最近、「AIが小説を書いた」「AIが音楽を作った」「AIが絵を描いた」など、クリエイティブな分野でも人工知能が活躍するニュースを耳にするようになりました。
人にしかできないと思われていた創造的な領域すら、AIは超越するのか…
ある種の危機感をもって、そう思われた方も多いかもしれません。わたしも、Web制作という立場から、危機感を持つ人間の一人です。
人工知能は何を作ったのか?人間の創造性とはなんなのか?
今日はAIのクリエイティブなプロジェクトを見ていくことで、人間とAIの創造性の違いを考えてみたいと思います。
AIによるクリエイティブなプロジェクト
はじめに、人工知能によるクリエイティブが、驚くべき進化を遂げていることをご覧いただきましょう。ここでは代表的な小説・音楽・絵画作品を取り上げてみます。
1.AIが小説を執筆する「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」
「私の仕事は工場のラインに入り、決められたルーチンをこなすことー」
そんな書き出しで始まるAI執筆の小説が、2016年3月に日本で唯一の理系文学賞、「星新一賞」の一次審査を通過し話題になりました。
AIを制作したのは、公立はこだて未来大学教授・人工知能学会会長の松原仁さんによるAI小説執筆プロジェクト「作家ですのよ」。
実際に読んでみると、驚くほど文章の破綻がなく、ショートショートとしてのストーリー(オチ)があります。内容が人工知能のことなのがまたなんとも面白い。無味乾燥な文章ではなく、感情が描かれているのも意外でした。
「コンピュータが小説を書く日」や「私の仕事は」など、AIが書いた小説はプロジェクト公式サイトからご覧いただけます。
AI自動作曲サービス「Amper Music」
「Amper Music」は、人工知能による自動作曲サービス。海外のサイトですが、なんと実際にWebサイトからすぐに楽曲を生成することができます。
しかも生成方法は簡単。ジャンルや雰囲気、曲の長さを選ぶだけ。あとはAIがオリジナルの音楽を作ってくれるのです。
※ちなみに「Jukedeck」というAI自動作曲サービスも存在していたのですが、こちらは2021年現在閉鎖してしまっているようです。
AIによる絵画「Edmond De Belamy」
2018年10月25日、AIが描いた絵画「Edmond De Belamy」が、アメリカのオークションで43万2500ドル(約4900万円)で落札されたとして話題になりました。
このAIを制作したのは、フランスのパリで、人工知能を使った絵画を研究・制作しているチーム「OBVIOUS」。
実際に暗闇から浮かび上がる人物は、中世ヨーロッパのバロック絵画を彷彿とさせます。右下に書かれているサインのようなものは、制作に使われたアルゴリズムの数式だそうです。
また、マイクロソフトなどが取り組んだ「The Next Rembrandt」というプロジェクトでは、あたかもレンブラントが描いたような作品をAIが生み出しています。
人工知能はどうやって作品を作るのか?
小説・音楽・絵画…こうしてみると、もはやAIには何でも作れそうな気がしますね。では人工知能は、いったいどのように作品を作るのでしょうか?
実は、どのジャンルでもAIが作品を作る方法は共通しています。
それは、「大量にある過去のデータからパターンを学ぶ」ということです。
例えば、「作家ですのよ」では1001篇以上とも言われる星新一の作品をAIに解析させ、物語や文章のパターンをマスター。基本的な言語の理解を加えて、物語を創造させています。
音楽や絵画でも、過去の大量の作品データをAIに勉強させる、いわゆる「ディープラーニング」という技術が使われています。
その結果「星新一っぽい」「JPOPっぽい」「中世絵画っぽい」ものを、AIは生みだすことができるようになるわけです。
裏を返すと、同じAIに「村上春樹っぽい」とか「ピカソっぽい」ものを作ってもらうことはできませんし、過去のデータがないものを新しく作ることはできません。なんでも作れるようになるわけではないのですね。
人間の創造性と、人工知能のクリエイティブの違い
電通のクリエイティブ・ディレクター古川裕也さんは、クリエイティブについてこう述べています。
今までになかったアウトプットを生みだすことによってのみ、クリエイティブの仕事は意味を持つ
古川裕也『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』宣伝会議 2015
人工知能は、確かに「今までにない作品」を作っています。でもそれは、「新しい表現」ではないのです。
何かお手本になるものがなければ、人の心を動かすものは作れない。これが今の人工知能のクリエイティブの限界です。
対して人間は、異なる領域のものをかけ合わせて、今までにないクリエイティブを生みだすことができます。それは、ときに全く違う意味付けまで与えることができます。
例えば「テクノ」という音楽ジャンルは1980年代まで存在しませんでした。パソコンがオタクのものだった時代に、appleはパソコンを「クールで洗練されたもの」という新しい意味付けを与えました。
少なくとも今の人工知能には、こういったクリエイティブな作品を作ることはできないようです。
この先クリエイティブな仕事は生き残れるか?
じゃあ、クリエイティブな仕事では、まだまだ人間は活躍できるのでしょうか。
実は、人間が生み出している多くのクリエイティブも、「◯◯のようなもの」ばかりなことに気づきます。
実際にわたしが携わっているWeb制作の領域では「このサイトと同じようなサイトを作って欲しい」という依頼がよくきます。例えそうでなくても「このサイトを参考にしよう」と多くのデザイナーは、何かを参考に制作しています。
これは、「過去のデータがあるもの」「今まで既に作られてきたもの」をもとに作るAIと変わりありません。
人工知能は、それを大量に、しかも高速に生みだすことができ、その多くの試行錯誤の結果、一般的な人の創造性を大きく超える可能性を持っているのです。
きっとこれから10年後には、これまで人間にしかできないと思われていた分野ですら人工知能は活躍するでしょう。
実際に、多くのクリエイターが使用している画像加工ソフトのPhotoshopなどにも、Adobe Senseiという名前の人工知能が組み込まれています。
わたしたち人間がこれからもクリエイティブであるために
「表現する」「作る」という分野で、AIの方が優れた創造性を発揮するとしたら、わたしたちができることは何でしょうか。
わたしは、「新しい価値感」や「自分だけの意図」を持つことだと思っています。
「人を幸せにしたい」「楽しませたい」「便利な世の中にしたい」「深く考えてほしい」「この悲しみを表現したい」
人間の生みだす制作物には、必ず意図が存在しています。それこそが、クリエイティブの源泉だからです。
「自分だけの意図」なんて難しいと思うかもしれませんが、これはすなわち「ストーリー」にほかなりません。
「なぜこの作品を作るのか」「それを見てどう感じてほしいのか」
それは、あなたにしか持ちえない物語です。
そして、人間が心を動かすのは、上辺の表現だけでなく、その裏にある意図や想い、ストーリーがあるからだと思います。
appleの理念ともされる「think different」は、まさにそれを体現しています。
人工知能は、あなたの想いや意図を、思いのままに表現してくれる最高のパートナーになるかもしれません。
表現や制作にAIの力を借りることで、わたしたちはより効率的に、創造的に、モノづくりができるようになるかもしれないのです。
大量生産される消耗品としてのクリエイティブではなく、人の想いや感情に深く根ざした創造性こそ、今後人間が作り出すクリエイティブなのではないでしょうか。