わたしの勤務先はWeb制作会社なのですが、最近AI搭載のソフトが次々とでてきて「これから先、わたしたちの仕事って大丈夫なの?」という話すことも増えてきました。
Web制作というのはクリエイティブな仕事と思っているのですが、そんな領域すらAIに取って代わられるのではないかという危機感をいただく人は少なくありません。
- AIはいずれは人間の能力を超える
- AIに仕事を奪われる
- AIが人間を支配するようになる
- AIが仕事をするから働かなくてよくなる
AIに対して、このようなイメージを持つ人も多いのではないかと思います。
実際にAIの進化によって、わたしたちの暮らしが急激に変化していくことが、多くの研究によって予測されています。
中でも有力なのが、「2030年以降、多くの仕事がAIに取って代わられ、大量の失業者が発生する。」というものです。
残念ながら、AIから多大な恩恵を受けるのは、ごく一部の人たちに過ぎないということ。貧富の差が急激に広がることも予測されています。
では、AIによって起こる変化に対応するために、わたしたちはどうしたらいいのでしょうか?
それを知るためにも、まず「AI(人工知能)とはなにか?」「AIには何ができて、何ができないのか?」を知ることが必要ではないかと思います。
AIにできないことができれば、仕事をAIに取って代わられることはありません。
今日は、AIによってどのような未来になるのかをまとめたいと思います。
AIとはなにか?
AI(人工知能)を辞書で引くと、次のような解説が出てきます。
学習,推論,認識,判断など,人間の脳の役割を機械に代替させようという研究分野,あるいはそのコンピューターシステムをいう。
出典:株式会社平凡社『百科事典マイペディア』
例えば、将棋の世界では、2017年の電王戦で佐藤天彦名人に「将棋ソフトPONANZA」が勝利したことは、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
私たちの身近でも、ソフトバンクのペッパーくんや、AppleのSiriなど、人間とコミュニケーションを取れるAIが普及してきました。自動運転の車で走れるようになる日も、そう遠くないかもしれません。
では、人工知能は人間のすべての能力を超えることができるのか?というと、答えはNOのようです。
AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。(中略)人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはありません。
AI研究の第一人者で、国立情報学研究所教授の新井紀子さんは、その著書『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の中で次のように述べています。
つまり、「0か1か」という数字の世界でAIは成り立っているということです。人間の心や感情は、また他人に対する共感は、数値では表すことができません。
ペッパーくんやSiriは会話したりコミュニケーションを取れるように見えますが、相手の言葉を分析して、最適な答え(正解)と思われるものを返しているだけなのです。
実際には、単語の意味を理解しているわけでも、人の心を理解しているわけではありません。
先の将棋ソフトPONANZAも、将棋というルールの中でしか機能できません。つまり、様々な分野を横断して考えたり、既存の枠組みを超えた柔軟な発想をすることはできません。AIはあくまでも「答え」「正解」のあるものを元に、機能しているのです。
ただし、新井紀子さんは、AIの限界を示しながら、次のようにも述べています。
AIが人間の仕事をすべて奪ってしまうような未来は来ませんが、人間のしごとの多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っています(中略)現代の労働力の質がAIのそれと似ているということは、AIでは対処できない新しい仕事は、多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が非常に高いということを意味するからです。
私たちは今のままだと、AIに仕事を奪われる可能性に直面しています。
ではAIにできる仕事、できない仕事はなんでしょうか。
AIによって消滅する仕事
ランク | 職種 |
1 | 電話販売員(テレマーケター) |
2 | 不動産登記の審査・調査 |
3 | 手縫いの仕立て屋 |
4 | コンピューターを使ったデータ収集・加工・分析 |
5 | 保険業者 |
6 | 時計修理工 |
7 | 貨物取扱人 |
8 | 税務申告代行者 |
9 | フィルム写真の現像技術者 |
10 | 銀行の新規口座開設担当者 |
上の表は、オックスフォード大学の研究チームによって、今後10〜20年後になくなると予測されている職業のトップ10です。
これを見て少し意外だなと思った方も多いかもしれません。1位の電話販売員や5位の保険業者は、人とのコミュニケーションが必要な分野です。
しかし、通販の受付や問い合せ対応といった電話販売員や、その人にあった保険を紹介する保険業者は、決まったパターンやマニュアル、または膨大なデータがあれば、最適解を導き出すことが容易です。
限定されたシチュエーションの中でなら、コミュニケーションが必要な業種でも、AIに代替されうるということになります。コミュニケーションが不要で、定型化された業務なら更に簡単なのは間違いありません。
実はこの表には続きがあり、全職種の半数が消滅するリスクがあると予測されています。実は私たちの仕事の多くは、マニュアル化された、あるいは過去のビッグデータから学習することで得られるスキルによって成り立っているのです。
10〜20年後も残る仕事
ランク | 職種 |
1 | レクリエーション療法士 |
2 | 整備・設置・修理の第一線監督者 |
3 | 危機管理責任者 |
4 | メンタルヘルス・薬物関連ソーシャルワーカー |
5 | 聴覚訓練士 |
6 | 作業療法士 |
7 | 歯科矯正士・義歯技工士 |
8 | 医療ソーシャルワーカー |
9 | 口腔外科医 |
10 | 消防・防災の第一線監督者 |
10〜20年後も残る職業を見てみると、こちらは柔軟なコミュニケーション能力や共感性、人に対する理解力が必要な職業がランクインしています。
人の心に寄りそうこと、人の気持ちを理解して、コミュニケーションを取ることは、数式しか理解できないAIにはできない仕事です。
しかし、もう一つ注目したいのが「第一線監督者」や「責任者」です。これらは「指示をされて作業する人」ではなく、「どうすれば問題を最適な方法で解決できるか」を考えられる人、未知の状況に直面しても自分で判断して適切な指示を出せる人です。
AIは「過去の事例」から学ぶことは得意ですが、「未知の状況」には自己判断は苦手です。テクノロジーが急激に進化し、環境や常識が塗り替わる中で、今までにない新しいものを生みだすことはできないのです。
よく「AI時代ではクリエイティブでなければならない」という話が出ますが、このクリエイティブとは絵を描いたり小説を書いたりすることではなかったのですよね。
マニュアルや過去のビッグデータ、「答え」「正解」といった既存の枠組みにとらわれずに、新しい価値をつくることができるかどうかが問われているのです。
AIのある未来の日本
わたしのいるWeb制作業界については、残念ながらAIでどうなるのか予測は出ていません。しかし、AIが急速に普及し、多くの職業が消滅すると、大量の失業者が生まれることは予測されています。
一方で、AIによって効率化された事業は、莫大な利益をもたらします。
経営者とAIに代替されない一部の労働者層を除き、低所得者層が爆発的に増える。
ところが、失業状態の人はモノを買ったりすることができませんから、結局はモノが売れなくなり、経営者層も含めた社会全体が大不況に陥るのではないか…。
これが学者や識者が予想するAIのある未来と言われています。
一方で、大不況を回避するための2つの想定があります。
ベーシックインカムと、新しい産業の誕生
ひとつは、「ベーシックインカム」。年金制度や生活保護制度を一元化し、国が国民全員に、生活に必要な金額を毎月支給するという制度です。
もう生きるために「働かなくていい」という未来。AIに代替されない働く能力がある人だけが、高額の報酬を手に入れて、その他の人は別に労働する必要はないという世界です。
実際に、カナダやオランダで一部試験的に行なわれたこともあり、世界的にも注目されている取り組みです。
ただし、ベーシックインカムで支給されるのは生活に必要最低限な費用。「遊んで暮らせる」というほど贅沢はできないかもしれませんね。
もう一つは、「AIによって生まれる新しい産業」によって、失業者は新しい就職先を得るという想定です。
第二次産業革命で、工場が機械化された後にホワイトカラーが大量に生まれたように、AIの登場によって、これまでにない新しい産業ができるだろう、と考えられています。
しかし、この産業は「AIにできないこと」でなければなりません。AIに仕事を奪われた人たちが、AIにできない仕事をできるのか、という疑問が残ります。
AI時代を迎えるにあたって必要なこと
ベーシックインカムにせよ、新しい産業が生まれるにせよ、私たちの仕事の多くが「AIによって代替される」という未来は変わりません。
それも100年先ではなく、もう10年〜20年先に迫っていることです。今の子どもたちは、おそらく今のわたしたちとは、全く別の世界に生きることになるでしょう。
このAI時代を楽しく生きるために必要なのが、「AIにできないこと」すなわち「感情や共感を大切にしたコミュニケーション能力」と「柔軟な発想ができるクリエイティブな能力」を身につけることです。
「私はカウンセリングもできないし、クリエイターでもない」と思われるかもしれません。でも、これらは限られた一部の天才が持っている能力ではなく、ごく一般的な人にも潜在的に持っている能力だと思っています。
コミュニケーションは普段生活の中でも行っているものですし、クリエイティブな能力「今までの常識にとらわれず、新しい価値を生みだすこと」も、仕事や暮らしの中で磨くことができます。
まずは、常識の枠組みを外すために「なぜ?」という視点で、世界を眺めることから始めてみましょう。
「なぜ、今の業務はこういうフローなんだろう?」
「なぜ、このビジネスは成功しているのだろう?」
「なぜ、職場に出勤しなければならないのだろう?」
ぜひあなた自身の常識の枠組みを超えて考えてみてください。
きっと今までになかった発見があるはずです。
AIのある未来と仕事に関する基礎知識まとめ
- AIは計算機、人間以上の知能を身につけることはない
- 10~20年後、AIによって半分の職業がなくなる可能性がある
- AIに代替できない職業は、高度なコミュニケーション能力やクリエイティブな能力が必要なもの
- AIによって大不況がおこる一方、ベーシックインカム制度の導入や新しい産業が発生する
- AI時代を楽しく生きるために必要なことは、コミュニケーション能力やクリエイティブな能力を引き出すこと
いかがでしたか。これらは宗教家の「預言」ではなく、AI研究の学者による「予測」です。
私たちは、もうAIのない未来を生きる選択肢はありません。AIとともに生きるために、今からなにをすればいいのか、考えるきっかけになれば幸いです。